ガンダムにおひげが有りますか!?

月に繭地には果実―From called “∀”Gundam

月に繭地には果実―From called “∀”Gundam



ちゅうわけで、読み終わりましたので感想など



まず、大変面白かったとは言っておきますが、はなはだロボットの出てくる小説本として間違った作りの本なのは認めねばならないでしょう。

表紙もご覧の通り、裸の女性だし、スニーカー文庫とかみたいにカラー口絵とかもありません。

各章の扉に書き下ろしの安田朗画が付いているのが、文庫版よりサービスいいですが(こちらは挿絵のたぐいは全くなし)ロボ画はターンエックスとウォドムだけ(後者はなんか壁画風で全然アニメと違う絵だし)

んー。5章のロランの後ろのはひょっとしたらホワイトドールのヒゲなのかもしれませんが。

それにしたって、亡国のイージスがおもろかったのでこれも買ってみた、ってひとがあのヒゲ面を思い描けるとも思えないんですけど。



あと、ロランがホワイトドールターンエーガンダムと呼びたがるのは嫌でしたね。

実はアニメではガンダムでは無いとまで言われる機体なんだし。

目が赤いのも嫌だし、ハンマーを一度も振るわなかったも残念です。



登場人物の心理描写が細やかなので、アニメで分かりづらかった部分などが見えてきて面白いのですが、中盤あたりまでは、基本的にアニメの展開をなぞっているので、退屈と感じる向きもあるかもしれません。



が、番組の終了前に書かれたという本書は終盤に至って大変にダイナミックな展開を見せるのでした。

ターンエックスの扱いにもビックリしましたが、ウィルゲムが月へ向かったあとの地球での戦闘のエスカレート具合が、ここまでやるのか!って具合で、大変ショックを受けました。

ここに至って本書はいい意味で「ロボットもの」と言う枠を逸脱してしまったと思います。

どこか弛緩した所のあった紛争は終わりを告げ、いかにも我々に理解しやすい「戦争」が描かれてしまいます。

ホワイトドールの月面でのラストバトルは非常に美しい画面が浮かんで来る幻想的な描写でした。

しかし、終盤はかなりの主要な人物がそれぞれの妄執の虜になってしまい、アニメ版の取り澄ましたキエルお嬢さんやハリーが好きだった私には少なからずショックでした。

とはいえ、しっかりした人物描写には説得力があり、それを受け入れられない訳ではありません。むしろ心の闇を描く事で光の部分もより際だったのではないかと思われます。



月の科学文明と文明の退行してしまった地球の民族の文化のギャップによって生まれたカルチャーショックの部分ってアニメ版では伝わりにくかったように思いますが、

 次になにが起こるかわからない世界。それは、国土そのものを一から人工的に作り上げていった「故郷」*1では考えられないことだった。予測の立たない未来に期待するのでははく、想定した未来を呼び込むために現在の生がある、とした「故郷」での生活。それに対して、ここには自由な時間の揺らぎがあった。

などという冒頭のロランの心理描写でも分かるように。本書はこの部分を非常に丁寧に伝えていて大変興味深く読みました。

受け売りですが、極端な状況の中で増幅されて見えてくる普遍的な人間性、これがSFに接す歓びだと思います。


マジお勧め。



アニメ版観ていて、序盤が退屈な人はいきなり5章から読み始めるのも有りかもしれません。



さて、愛蔵版と文庫版、どっちを買うのがいいのかは一言では言えない。

実は価格的には同じ様なもの。

愛蔵版の表紙絵、口絵は魅力的ですが、文庫版のカバーはこれはこれで味があるし、各巻に解説が付いている分得した気分がするかもしれない。

月に繭 地には果実〈上〉 (幻冬舎文庫)
月に繭 地には果実〈中〉 (幻冬舎文庫)
月に繭 地には果実〈下〉 (幻冬舎文庫)

*1:月面都市を指す